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ささやかだけど、あったら幸せな洋菓子を〈洋菓子sinonoka 篠崎夫婦〉(後編)

篠崎 大介さん

プロフィール:理系の大学を卒業後、システムエンジニアとして就職。その後、製菓学校に入学。数々の人気店にて修行を積み、2020年「洋菓子sinonoka」をオープン。パティシエとして製造を担当。

篠崎 寿子さん

プロフィール:大学卒業後は医療事務として勤務。その後、製菓学校に入学し、都内有名店にて販売を担当。2020年、大介さんと共に「洋菓子sinonoka」をオープン。主に接客を担当。

前編こちらから

篠崎さんの1日のルーティン

4:00起床
4:30仕込みスタート
7:00スタッフ出勤
10:30みんなでブランチ
11:00sinonoka オープン 製造
17:00sinonoka クローズ
17:00〜18:00みんなでごはん
19:00翌日の準備や掃除
20:00~夏は20時頃、冬は23時頃まで試作や残りの仕事

テナント探し、お店との出会い

酒井:「お店を探している、と来店してくれたのが2019年頃だったと思うのですが、どうして松栄に来店したのですか?」

「お店を開きたいと思って、不動産屋を探していたんです。

それでHPを色々見て、なんとなく親身になってくれそうだなと感じて、飛込みで行かせてもらいました。

  

不動産屋に相談に行くのも初めてで、緊張していたのですが、洋菓子店を開きたいと伝えたら、ちょうど新しいビルを菊名池公園脇に建てる計画がある、ということを教えてくれたんですよね」

建設中の様子

酒井:「そうでしたね、公園脇の目立つ場所だったので、自社ビルの1階は自分たちが出店するのではなくて、街の人が喜んでもらえる業種に入ってもらいたかったんです。1階が不動産建築屋だと街の人はガッカリするだろうから…(笑)

 

でも、まだ計画中だったから『なんで知っているんだろう!?』とは思いましたけど…」

「私たちは何も知らず、地元に詳しそうだから『とりあえずあそこに行ってみよう』という感じで…

たまたま行った所で、たまたま良いお店に出会えて…

 

その後は、トントン拍子で話が進み、出店が決まりました」

sinonoka 施工中の様子
オープン前、施工途中のお店で試作を重ねる篠崎さん

sinonokaの意味

酒井:「『sinonoka』にはどういう意味が込められているんですか?

「私のニックネームがシノで、篠崎のお菓子シノのカシ、という意味です。

シンプルで自分らしいかなと思って名付けました。

お店のロゴやデザインは、出店準備の時に松栄さんが紹介してくれた、妙蓮寺在住のグラフィックデザイナー伊従史子さんにお願いしました。

伊従さんは、私たちの『野の花のような彩りがあるお菓子』というコンセプトをロゴマークに活かすため、わざわざ植物園まで足を運んでくれたり、修行したパティスリーのお菓子を食べに回ってくれたり

 

『私たちが大切にしている世界観』をすごく丁寧に掘って、理解して、寄り添ってくれました。

今でもお店のディレクションで迷うと、いろいろ相談しています。

伊従さんがデザインした、シノノカさんのロゴ

ささやかだけど、しあわせなケーキ作り

酒井:「sinonokaさんは、どんなお菓子を目指しているんですか?」

「野の花のようにささやかだけど、あったらしあわせなケーキをつくりたいと思っています。

また食べたいと思ってもらえるものにしたいんです。

ショーケースを見た時に『キレイ』よりも『美味しそう!』と言ってもらえるような、お菓子だといいなと思っています。

だから飾り一つでも、見た目のためだけじゃなくて、ケーキを構成する味のパーツの一つとして考えています。

できあがったお菓子が美味しそうな表情をしているか、っていうのはすごく気にしていますね」

美味しそうなケーキが並ぶショーケース

「あとは、いま販売している商品も『もっと美味しくなるんじゃないかな』って常に考えてます。

大きく変えるわけではないんですけど、仕込み方を変えたり、構成を微妙に変えたりとか、変化というよりは『進化』していけたらいいですよね。

より美味しくなってお客様に喜んでもらえたら嬉しいし、季節とか時代に合わせて微調整していくことは必要だと思います。

だから『これで完璧!』って満足する日は永遠に来ないんだろうなーって、たまに思います(笑)

酒井:「美味しい、を実現するためには技術も必要ですよね」

「そうですね。美味しいと思っていただけるものを作るには技術は必要だと思います。

たとえばタルトの生地を型に敷き込む作業一つとっても、手早く均一に一定の薄さで綺麗に敷き込めれば、食感がいいし美味しいんです。

逆に作業が遅かったり厚みが不均一なら同じ生地を使っても美味しさが違ってしまいます。

手間もかかる作業だから、最近はできあがったタルト台を仕入れて作っているお店も増えてるんですけど、やっぱり手をかけた分の美味しさがあるので、うちではまだ一つ一つ手作りしているんですよね。

ケーキはパーツがたくさんあるので、技術の積み重ねで作られているとは思うんです。

でもお客様には小難しいことは考えずに口に入れてもらって、『美味しいなぁ』とホッとしたり笑顔になってもらえてたら、それが一番嬉しいですね」

味の基本となるカスタードクリームは、毎日シェフがお店で炊いているそう

酒井:「一日の中で、しあわせを感じるときは?」

「やっぱり、お客様がたくさん来てくださって、『美味しそう」とか『美味しかったよ』とか喜んでくださってるお顔を見れた時ですね。

あとは夕方みんなで遅い昼食を食べながら、その日の出来事やお客様とのやりとりをワイワイと話してる時間がすごくしあわせです」

酒井:「お店の一番人気は?」

「ショートケーキやシュークリーム、ドゥショコラなどが定番で人気です。

季節でモンブランやタルトタタンなども人気が高いですが、色んな商品にファンがいてくれて、自分たちが忘れていたケーキもお客様が覚えていてくださることもあってとても嬉しいです。

あと、クッキーもおかげさまで完売することが多いですね」

売り切れることが多い、シノノカン

酒井:「今は妙蓮寺の手土産、としてかなり認知されてますよね」

「手土産で持っていくと、とても喜んでもらえるとご好評です。

購入されたお客様が『送った方から、美味しかったとわざわざ連絡が来るんだよ』と、教えてくれることもあって、本当に嬉しいです。

シノノカンのパッケージは、伊従さんのアドバイスでイラストレーターの佐々木未来さんにお願いしました。

同じく掛紙も、地元で活躍されている山口あきさんをご紹介頂き、現在のシノノカンやパッケージができました」

今後やりたいこと、伝えたいこと

酒井:「これからの展望などありますか?」

「そうですね、私たちはあまり拡大思考もないので、このお店で、この規模で、もっと面白いお店にしていきたいと思っています。

味がブレるのが嫌なので大きくするよりは、この規模でもっと充実させたいですね。

ギフトも増やしたいし、技術的にできる事はまだまだあると思うので、忙しくて出来ていなかった事を慌てずにやっていきたいです」

シノノカンのウィンターバージョン

酒井:「最後に、ケーキ屋さんになりたい子どもたちにメッセージを頂けますか?」

「ケーキ屋さんって、キラキラした職業に見えますが、実際は朝も早くて体力的にも大変な仕事で、途中であきらめてしまう人も多いんです。

でもこうやって続けていれば、自分の作ったケーキがショーケースに並んで、
それを見たお客様が喜んでくれて、笑顔になってくれて… 

大変なことを続けた先には
 キラキラしたものはちゃんとあるよ、本当にある』

って、伝えたいです」

酒井

sinonokaさん、ありがとうございました!

編集後記

篠崎さんが、はじめて訪ねてきてくれたときのことをよく覚えています。

 

菊名池公園脇は、街でも目立つ場所だったので、私たちもどんな人に入ってもらうか悩んでいました。

 

そんな時に篠崎さんが突然現れ、妙蓮寺に住んでいて「この街が好きなので、この街でケーキ屋を開きたい」ということを聞き、他にも色々お話して、私たちも「妙蓮寺の手土産をつくってください」なんてお話もしました。

 

その後、出店が決まって、お店も施工させてもらって、オープン後は連日行列が出来て、沢山のお客様が訪れる地元の人気店になって…

  

あっという間でしたが、今では街の人の生活に欠かせないお店になったなと感じています。

 

野の花のようにささやかだけど、あったらしあわせなケーキ、は篠崎夫妻の人柄があらわれていると感じたインタビューでした。